動物

シャトゥーン ヒグマの森(増田俊也 著)

シャトゥーン(穴持たず)

 北海道大学天塩研究林、真冬はマイナス40度になることも珍しくないという厳寒の地です。ここで猛禽類研究を続けるチームに試練が訪れます。

 タイトルのシャトゥーンは、「穴持たず」のことで、通常冬眠をして冬を過ごす熊が、何らかの理由で冬眠に失敗してしまい、厳寒のなか、食料を求めて徘徊する、というものです。

 穴持たずは常に飢えているため、人里に近づいて食料を探し、ゴミや残飯を物色、次いでは家畜を襲い、最悪のケースでは人を襲うことも考えられる危険な状態にあります。

日本最大の陸上動物

 北海道に生息するヒグマは、本州に生息するツキノワグマが最大でも60~70キロなのに対し、何と最大で350~400キロに達するという桁違いの巨体を誇っています。当然筋肉も大きく、そのパワーは自動車も壊してしまうレベルです。200キロ近いエゾ鹿を捕食して食べるという食性も持ち合わせています。

 そんなヒグマが冬眠できずに飢えながら彷徨っているなんて想像するだけで恐すぎます・・。銃があれば大丈夫かな、とも思いますが、ヒグマには日本で流通している銃はほとんど効き目はありません。

 日本の銃の多くは散弾銃。弾の種類で小型の鳥類から大型の鳥類、うさぎなど狩るものが変わるのですが、最大の弾を使ってもせいぜい鹿、猪までしか通用しないのです。ヒグマの分厚い脂肪と筋肉を貫通できるのはライフル銃だけです。

 そのライフル銃の所持許可は、散弾銃所持許可と使用が10年以上の者に限る、という制度があるため、根本的にベテランの猟師しかライフルを所持できません。圧倒的に所持者が少ないうえに、ヒグマと対峙できる経験豊富なハンターとなれば、さらに希少な存在となってしまいます。

有名なシートンも恐れる

 シートン動物記で有名なアーネスト・トンプソン・シートン(アーネスト・トンプソン・シートン – Wikipedia)はヒグマについてこんな記述をしています。「ヒグマは地上のどんな生物も恐れはしなかった。ヒグマは北国の王者だった。オオカミやホッキョクグマもヒグマに敬意を払い、腐肉をあさる権利を譲っていた。」

 ヒグマ、恐るべし。向かうところ敵なしです。以前ニュースで野生のヒグマを観察する観光客、というものを見ましたが、車から降りて写真撮影などをしている姿がありました。恐れ知らずというか、無茶というか、絶対にやめたほうがいいです。・・事故が起きたら保険っておりるんですかね・・。

北海道は日本最大種が多い 

 北海道では、大陸続きの時代に往来した動物が亜種として進化しながらも、雄大な自然と外部との断絶もあって、大型の体躯のままに現在まで存続してきました。熊を始め、鹿、馬、いないけど狼、フクロウ、リスなど固有種が多いだけでなく、いずれも日本最大の体躯を誇っています。寒冷地では動物は大型化するものですが、北海道の自然は世界に誇るべき雄大で独特な自然環境を有し、数々の固有種が存在しています。いつまでも大事にしていきたい、大事にしなければならないと思います。

 さて、シャトゥーン ヒグマの森ですが、スリル満点なミステリーでヒグマの恐さが存分に描かれています。同時に北海道の自然を大切に描いていますので、北海道旅行の前にはぜひ、ご一読いただきたいですね。

Rogueだけど冒険と自然と本が大好きなHunter&Writer