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ヤマイヌ・・とは?

ヤマイヌと言えば

 「ヤマイヌって何ですか・・?」こんな単純で素朴な疑問がありました。でもこの回答って・・。シンプルな質問なのに答えが分からない難問です・・。

 ヤマイヌと言って真っ先に思い浮かぶのは「もののけ姫」に出てきたサンの育ての親、白い大きな山犬の「モロ」ではないでしょうか。正確には「モロの君」と言いますが、この山犬はシシ神の森を守る神様、犬神です。もののけ姫でも最後までシシ神の森を守るために戦い続けていました。

 モロは言葉数は少ないのですが、声優の美輪明宏さんの声がピッタリで、神々しくも艶やかで、どこか悲しげですべてを悟っている。そんな印象を与えていました。「黙れ小僧!・・お前にサンを救えるか!」は今でも強烈なインパクトを残しています。

なぜモロは「山犬」って呼ばれるの?

 モロの君は犬神、神様という立ち位置ですが「山犬」と呼ばれています。よって、まずはモロが山犬と呼ばれる理由を探ってみました。

 古来(明治時代までですが)より、山犬という言葉には複数の意味合いがありました。まずは山に住むオオカミ。いわゆるニホンオオカミです。そして、山に住みついて野生化したイヌ。野犬です。そして妖怪の送り犬の別名。これらの意味がが混在した呼び名が山犬となります。

 さて、モロのケースで最も有力なのは「オオカミ」ですね。まさか野生化した犬ってことはないでしょう。妖怪みたいに尻尾が2本もあってしゃべることもできますが、妖怪の送り犬、というのはそもそもオオカミが人の後をつけて歩いてくる、という習性を「気をつけるんだよ」という戒めの伝承にしたものと言われていますので、消去法でもオオカミしかありません。

 オオカミと言えば信仰の対象として「大神」「山神」と少なくとも鎌倉時代から崇められています。せっかく開墾した田畑を荒らす害獣から自分たちの農作物を守ってくれる益獣としてオオカミが存在したのです。

 信仰そのものは長く続きますが、江戸時代から明治にかけては秩父を中心に多くの神社が「おいぬさま」のお札を掲げ、オオカミ信仰、山岳信仰が盛んになりました。

 以上のことから、モロが山犬、と呼ばれるのは「山神」「大神」、という意味でのオオカミ=山犬というわけです。

二ホンオオカミとヤマイヌ

 明治時代以降、山犬から「ニホンオオカミ」という固有名称が抜き出され、曖昧なままに山犬とニホンオオカミが分離されました。両者はそもそもニホンオオカミを指していたので、ニホンオオカミと野犬などの山犬は別物だという説と、山犬はもとからニホンオオカミのことである、と言う説に分かれますが、今となっては何とも言えないですね。

 強いて答えを求めるなら、当時、二ホンオオカミというイヌ科の動物と、ニホンオオカミと交配したハイブリッドな犬、また野生化して山で繁殖している犬、これらを明確に見分けられていたかどうかだと思います。

 想像するに、ネットもカメラもなく、山で見かけたイヌ科の動物がオオカミかハイブリッドか野犬か、などという判断は不可能ではないでしょうか。そもそもこれが本物のニホンオオカミ、という動物を正確に知っている人がどの位いたのでしょう・・。よって、山犬という表現は非常に都合がよかったのではないかと思います。

 今でも、ネットやテレビでニホンオオカミの話題がでてきますが、目撃情報や写真などがあっても明確にニホンオオカミ、野犬と区別ができていません。あくまでも鑑定によって判別しない限り、「これはニホンオオカミです!」という結論は絶対に出せないのです・・。

ヤマイヌと山犬

 話がズレてしまいました。ヤマイヌの話に戻ります。

 まずは山犬とヤマイヌの表記についてですが、調べてみても「これだ」という答えがわかりませんでした。これは勝手な推察ですが、明治以降、山犬からニホンオオカミという固有名詞が独立した際、山犬という曖昧な呼称をなくすためにヤマイヌとしたのではないかと思います。この場合のヤマイヌは、あくまでもニホンオオカミ以外の山に住む野犬のことを指すようにしたのではないか・・と。

 漢字とカタカナで思い出したのですが、狩猟免許を取った際、「一般社団法人大日本猟友会」がテキスト?を配布してくれました。タイトルは「狩猟読本」です。

 この狩猟読本は、挿絵つきで狩猟可能な動物、禁止されている動物などが詳しく分類されています。これを初めて読んだときに違和感を覚えた動物名が載っていたんです。

 狩猟獣類2(イヌ科、イタチ科、ハクビシン他)というページには動物ごとに挿絵が入っていて、狩猟可能な獣類2の分類動物が記載されています。例えばアライグマ、タヌキ、キツネ、テン、ハクビシンなどです。

ノイヌ・・

 どれもよく聞く動物名なので、絵と一緒に見ても何の違和感もないのですが、ページの一番下に、こんな注意書きがあったんです。

 注)この他、ノイヌ、ノネコ、チョウセンイタチ(オス、メス)も狩猟鳥獣。

 この注記には当然挿絵は入っていません。・・ん・・・えっ・・「ノイヌ」「ノネコ」って何だ??

 思い出したのはこれ、「ノイヌ」です。漢字では「野犬」と書きます。普通は「ヤケン」と読みますよね。ノイヌは野犬の事でした。当然ノネコは野猫です。

ヤマイヌ・カタカナ表記の回答

 同時にヤマイヌ、山犬も何となく判明した気がします。鳥獣法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)では、鳥獣の名前はすべてカタカナでした。ノイヌの説明の中にオオカミも出てくるのですが、狼ではなくオオカミと表記。山犬の表記はないのですが、鳥獣法的にはヤマイヌです。

 これで解決でいいですね。ヤマイヌというのは、明治時代まではニホンオオカミと交配種、野犬を指していた総称。信仰対象の「おいぬさま」も犬神、大神、オオカミなのでヤマイヌの総称に含まれる。

 何だかすっきりしたようなしないような結論になりましたが、ヤマイヌとは?という問いには何とか答えが出せました。

 この結果から次なる疑問が・・「ニホンオオカミとヤマイヌの違い」です。見た目はもちろん、習性など何がどう違うのか・・時間があったら調べてみたいと思います。

狩猟読本 ノイヌ

 余談ですが、「狩猟読本」のノイヌの説明がなかなか興味深いので一部引用しておきます。

 ノイヌ・・ネコ目イヌ科 ※外来種

 分布・・全国的に分布。ペットなどのイヌが野生化したもの。なお、オオカミは1905年を最後に確実な記録がなく、絶滅種とされている。

 特徴・・鳥獣法で扱うノイヌとは、直接人間の助けを借りずに自然界で自活し、かつ繁殖しているものを言い、一時的に人間から離れて生活している個体は非狩猟獣のノライヌとしている。飼育個体のイヌには様々な品種があり、大きさや体色には変異が激しい。このため、ノイヌは変異が大きいが、概して中型犬以上の場合が多い。

 オオカミ、記載がありました。・・それにしても・・ノイヌとノライヌの見分けは絶対に不可能ですよね・・・。

Rogueだけど冒険と自然と本が大好きなHunter&Writer