動物

光る牙(吉村龍一 著)

冬の日高山脈で事件は起こる

 物語の舞台は厳冬の北海道日高山脈。北海道庁森林事務所日高支所のログハウスで寝起きする若い森林保護官のもとに、上司から緊急連絡が入ります。

 日高山脈のご来光を撮るために冬山に入ったカメラマンが、下山予定の翌日になっても消息が分からず、急遽捜索出動となったのでした。

惨殺死体で発見

 登山計画書によれば、行き先は龍樹岳の「行者返し」と言われる難所地帯。森林保護官の二人は、冬山を4時間かけて登り詰め、行者返しまでたどり着きます。

 そこで見たものは・・カメラマンが使用したであろうテントと血痕、そして血で赤く染まった雪がこんもりと盛られた一角。二人がスコップで雪をかきわけると無残な惨殺死体が埋められていました。

 上司は何かの異変に気が付いたのか、急ぎ下山を決断します。警察への連絡を優先し、現場はそのままの状態で放置、とにかく急ぎ下山するのでした。

穴持たず

 事件翌日の現場検証で、犯行はヒグマによるものと断定されました。通常ヒグマは冬の時期は冬眠して過ごします。今回のヒグマは「穴持たず」と呼ばれ、何らかの理由があって冬眠することができず、食べ物のない冬山を餌を求めて彷徨っているという状態です。遺体は食害にあっており、爪痕と咬み跡はヒグマ特有のものでした・・。

 さらに翌日、猟友会10名と森林保護官2名の12名で構成された駆除隊がヒグマを求めて再び山に入ります。食害事件を起こした穴持たずを放っておくことは危険です。一刻も早く発見、駆除しなければ第2第3の被害が起こることが想定されます。

ヒグマの駆除に成功 

 雪の中で足跡を見つけた駆除隊は、途中で二手に分かれながらヒグマを追い、森林保護官の2名がヒグマの駆除に成功しました。検分の結果、胃の中からはエゾ鹿の肉や毛が出てきており、これで事件に関与したヒグマの駆除は終了した、と警察が会見を開くのでした。

 ただ、経験豊富な森林保護官だけは、この結果に疑念を抱いていたのです・・。

さらなる被害が・・

 森林保護官は警察に何度も忠告をしていました。「遺体の咬み後は駆除したヒグマのものよりはるかに大きい、カメラマンを襲ったヒグマは別にいる」。しかし警察上層部は全く取り合ってはくれませんでした。

 そして更なる事件が起こります。人を餌と認識した巨大なヒグマが再び現れたのです。賢くも巨大で獰猛なヒグマを相手に、森林保護官2人の壮絶な戦いが始まるのでした・・。

 圧倒的な日高山脈の自然と荒々しい野生の側面、そして保護官2人の熱く強い絆。ヒグマの凄惨な習性描写もありますが、この臨場感は小説とは思えないリアルに溢れています。動物パニック系の小説ですが、現実に起こっていてもおかしくないお話です。ハラハラドキドキとまたしても一気読み必至で今夜も寝不足間違いなしです。

Rogueだけど冒険と自然と本が大好きなHunter&Writer