無坂 ~嶽神伝~(長谷川卓 著)
嶽神伝 弐の巻 無坂
嶽神伝シリーズ時系列では第二章となる「無坂」、主人公の名前を取った巻となります。ここから長い戦いに巻き込まれ、時代に翻弄されていく「山の民」のお話がいよいよ始まっていきます。
時代は1542年、武田晴信(後の信玄)が父・信虎を駿河に追放してから約1年後、山の民、小暮衆の無坂38歳。この3年前、訳あって無坂は諏訪総領家当主、諏訪頼重の娘、小夜姫(後の武田勝頼の生母)を助けるという縁があり、そこから諏訪家の上原館へ薬草を届けるお役目を担っていました。
こんな展開で物語が始まりますが、お話の前半部分では、「山の民」の暮らし、習わし、持ち物、生活習慣、掟、他集落のことについてなど、その説明を兼ねて淡々と進んでいきます。
場所は甲斐と信濃・武器は・・
物語の設定地は甲斐と信濃が主となっていますが、駿河や岡崎も舞台として登場します。山の民の行動範囲は時に広く、その足は道なき道をものともしない健脚で跳ぶように走り抜けます。忍びですらその足にはかないません。それが修行でなされた技ではなく、生活の中で身につけた生きる術としての技として、山の民ならば当然と描かれています。
またその持ち物は、山で生きるための独特の持ち物、背負子、渋紙、五尺の杖、刃渡り八寸で柄が袋状になった山刀、刃が一尺、柄まで含めると一尺七寸にもなる長鉈などの説明が細かくされています。
いざという時には、多くは獣を相手にする場合ですが、この山刀を杖に差し込んで槍のようにして使い、長鉈と槍で戦います。
武田の諏訪・信濃攻略から
さて、平和に暮らしていた無坂の属する小暮衆、その他の集落を含めた山の民でしたが、武田晴信の諏訪、信濃の攻略の頃から様相が変わってきます。武田の動きに呼応するかのようにザワザワと近隣諸国の忍びが動き出していきます。戦に巻き込まれ生活に困窮した山の民の一部も他の集落を襲撃して生きのびる道を模索するなど、山も急激にせわしなく危険になっていきました。
山の民も集落の枠を超えて協力し合い、この困難に立ち向かうべく動き出しました。
山の民の掟と戦い
散々な苦心の末、何とか山の民同士の争いという最悪の事態を切り抜け、これで一息つけるのかという刹那の出来事が、「山の洗礼」です。
山では人の力が及ばないところに不思議ともいえる数々の伝来があります。この伝来は決してただの言い伝えではなく列記とした根拠、事象があって伝わったもので、いつ何時、その事象が起こるのかは誰にもわかりません。
想定できない事象に巻き込まれていく山の民、今回のお話はこれが終幕となっていきます。
さらにですが、物語の後半には「血路」で堂々の主役を務めた「七ッ家の二ッ」までもが登場してきます。今後、この無坂、二ッがともに物語を紡いでいくのですが、個人的には激アツの嶽神伝第二幕となりました。