嶽神伝

風花 ~嶽神伝~(長谷川卓 著)

風花~嶽神伝第6幕~無坂終焉の章

 嶽神伝では第6幕となる風花、無坂の章としては第4幕となり、これで無坂編は完結してしまいます。刻は1570年、前作鬼哭の後述となりますが、この10年前に桶狭間の戦いで今川を討った織田信長が台頭し、いよいよ2年後の1572年には武田信玄が織田信長との戦いを決意、3万余の軍勢を率いて西上へ進軍します。

 この時点で信玄は己の死期が近いことを知り、織田の討伐は自身亡きあとの武田家安泰を果たすため是が非でも成しておきたいことだったと思われます。

山の者・四三衆 月草 ・・

 嶽神列伝「逆渡り」の主役、その後も何かと無坂と行動を伴にしていた「月草」が齢82歳となりました。今は一人、妻の眠る山桜の近くで墓守をしながら最後の時が来るのを待っていました。やっと月草に訪れた平和な刻。

 その月草の様子を見に、無坂の孫、青地が訪ねてきました。青地も成長し、月草を訪ねるまでに一人で無坂の妹と息子龍五のいる久津輪衆、居つきの百太郎の小屋、更には真木備のいる軒山衆を訪ね、その健脚ぶりは往年の無坂をも凌ぐのではないかというほどでした。

 月草の小屋についた青地が見たものは、小屋で倒れ身動きもしない月草でした。病で動けず倒れこんでいたのですが、青地が無坂の孫と知り、自分の最後を、骨を妻の墓の隣に埋めてくれと頼みます。

 その後、青地の介抱を受け看取られながら、月草は逝きました。真木備に頼まれて訪ねてきた上杉家の忍び、名栗も青地とともに月草を看取りました。この後、青地は名栗とともに上杉謙信を訪ね、月草の死を報告、なんと一緒に酒を飲んでいました。青地もビックリの月草の縁ですね。

山の者・里の者勢ぞろいの風花

 さて、今回もキャストが充実しています。世代交代を間近に迎える武田家と上杉家。北条家も幻庵、小太郎が代替わりをしています。強大な勢力となった織田信長と臣下の秀吉。徳川家康も力をつけています。山の者も世代交代を迎え、二俣城に駆り出された久津輪衆の龍五、涌井谷衆の多十が共演します。七ッ家の二ッももちろん登場、巣雲衆では弥蔵が大長になりました。

 家康が伊賀者に信玄の暗殺を依頼したことから伊賀者対かまきりの戦いが始まります。時に味方となり敵となる主君を持たない山の者の動きも見どころです。

無坂78歳・・

 山を駆けるのにはいささか厳しい年齢にも思えますが、無坂をはじめ、山の者はまだまだ矍鑠としています。

 信玄が逝きました。武田家は長篠の戦いで大敗を喫し、崩壊への道のりを歩んでいきます。石山合戦を終えた織田信長がいよいよ牙をむき、無坂は最後の戦いへ向かいます。

 「助けた命は見守らねばならぬ」山の者の掟です。無坂は最後の最後まで我欲なく、誠実に義理を重んじて駆け抜けてきました。出会った人々は敵であっても無坂を憎み嫌うことはありませんでした。その心根に惹かれていたからではないでしょうか。シリーズを通して敵であったことの多い武田のかまきり。無坂はかまきりと共闘し、最後の刻を迎えようとしています。

 無坂の物語はこの第6幕風花で終焉します。人知れず歴史に名を残さない強者の物語。何度でも読み直して味わいたい無坂シリーズでした。

Rogueだけど冒険と自然と本が大好きなHunter&Writer