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ニホンオオカミ 再発見の壁
ニホンオオカミの特徴
1905年、奈良県鷲家口で捕獲された若いオスを最後に、その後現在に至るまで確実な生息情報がなく、残念ながら絶滅したと考えられるニホンオオカミ。最後の捕獲から120年近くがたちますが、今もなお、生存していてほしいと願う人は多いのではないでしょうか。そこには一種の畏敬の念、またはロマンを感じさせてくれる何かが「ニホンオオカミ」にはあるからだと思います。
ニホンオオカミは東北地方から九州まで、広く日本の山地に生息していました。その大きさは頭胴長(頭の先から尻尾の付け根まで)が90~110センチ位、尾の長さは30~40センチ位、地面から肩までの高さは50~55センチ位、推定体重は15キロほど、というのが定説となっています。
オオカミという種のなかでは最も小型の部類となり、日本犬でいえば中型犬くらいの大きさとなります。外見的な特徴でわかりやすいのは耳介が短い、前肢が短く体高率が50%ほど、背筋に黒帯が見られる、尾の端が黒く、スミレ腺の黒斑があることなどがあげられます。
ほかにも外見上でニホンオオカミの特徴を示すものはいくつかあるのですが、素人には判別しにくく困難(上の特徴も難しいのですが)です。
頭蓋の特徴からは、額から鼻先にかけての窪み(額段)が直線的な形状になっている(犬は窪みが発達している)、側頭部の神経孔が6個確認できる(犬やタイリク狼は5個)などが代表的な特徴となります。
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秩父野犬
1996年、秩父の山中で撮影された「秩父野犬」については、外見上のニホンオオカミの特徴を見事に兼ね備えていました。しかし、この写真をもってしてもニホンオオカミという断定はできず、秩父野犬、いわゆる野生化したイヌ、という見方が主流となっています。
これは、目撃情報や写真だけでは、絶滅したニホンオオカミが生存していた、とすることはできないという現実を改めて認識させられた例だと思います。
基本的な容姿、生態も残された資料が極端に少ないうえ、イヌ科は個体差が比較的大きく、微妙な毛の色、体躯など、見た目だけでは一概に判断しにくいのも要因です。
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ニホンオオカミの起源
2022年5月、山梨大学、東京農業大学、東京工業大学、山形大学、国立科学博物館、国立遺伝学研究所、国立歴史民俗博物館などからなる研究グループが、日本で発見されたオオカミの化石を用いてゲノムDMA解析、放射性炭素による年代測定に成功、ニホンオオカミの起源を解明したいうニュースが流れました。
この結果、ニホンオオカミは複数のオオカミ系統の交雑から成立、その後大陸から隔離された日本列島で繫栄し、その進化史は極めて特殊なものであることが判明しました。これはロマンのあるニホンオオカミという名に相応しい?結果だと思います。
ニホンオオカミの個体数激減
かつては繫栄していたと思われるニホンオオカミですが、1800年代後半には生息数が激減しており、1905年の最後の捕獲当時は、もはや伝説、幻ともいえる存在となっていたようです。
数が減った原因としては、人為的な駆除に加えて狂犬病やジステンバー、生息域の分断などが考えられますが、これらが複雑に絡み合って激減していったことは間違いありません。
残念ながら、生息していた当時は生態の調査、研究などという概念がなく、また希少な数となってしまっているという危機感を持つ人もほとんどいなかったのでしょう。生態についても多くの謎が残されたままとなってしまいました。
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ニホンオオカミの伝承
このような背景を持つニホンオオカミには、生態や存在にもいくつかの説や伝承があります。生態としては2〜3頭の群れで行動していた、または6〜7頭の集団で動いていた、岩の上で遠吠えする習性があった、などです。いずれにしても家族、同族で群れを構成していたと思われます。
伝承で興味深いのは、一部地域で大きいヤマイヌ、小さいヤマイヌ(ヤマイヌ・・とは?)という呼称が江戸時代まで使われていたことです。大きいヤマイヌはニホンオオカミを指し、小さいヤマイヌはあくまでヤマイヌで、オオカミは信仰の対象に、ヤマイヌは対象外と分けられました。この他にも大きいヤマイヌには水かきがあって泳ぐのが上手かったなども伝わっています。
長崎の出島に滞在していたドイツ人医師のシーボルトは、その手記の中で、大阪天王寺でオオカミとヤマイヌを購入、出島に持ち帰り飼育したとしています。シーボルトの絵師が、オオカミとヤマイヌをスケッチに残していました。シーボルトは明らかにオオカミとヤマイヌを別の種と考えていたようで、似てはいるが頭の形が明らかに異なっていると記しています。その後の調査と分析により、現在ではシーボルトが飼っていたのはニホンオオカミと交雑種ではないか、という仮説がたてられました。
大きいヤマイヌはニホンオオカミ、小さいヤマイヌは交雑種という考え方もできますが、これもあくまでも仮説(個体によっては大きい交雑種も当然いたはずです)で、昔から山に大型のイヌが生息していた、という地域の言い伝えなどもあり、ニホンオオカミと交雑種、そして純粋な野犬(ノイヌ・・とは?)との区分けは当時はほとんどできていなかったと考えられます。ヤマイヌという独自の種が存在していたという証拠はなく、残念ながら日本で発見された遺骸や化石の分析からは、ニホンオオカミもしくはイヌに分類されるという2通りしか事例がありません。
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ニホンオオカミと交雑種と野犬
以上を踏まえると、東北から九州にかけての山々には、江戸時代までニホンオオカミ、野犬、そして交雑種の3種のイヌ科の動物が生息していたということは間違いなように思います。イヌが家畜として飼われだしたのは縄文時代からでした。縄文犬と呼ばれていますが、体高は40センチ位とニホンオオカミより小さいことがわかります。野生化していたら間違いなく小さいヤマイヌです。いや、もともと飼育される前は野生ですよね・・。
現在も地域ごとではありますが、「野犬の群れが出没」「山に野犬が多くいる」などといった話をよく耳にします。そもそも人の目につく場所に出没する野犬の群れは、人に飼育されていたイヌがほとんどだと思われます。なかには1代2代繁殖しているものもいるでしょうが、人馴れしていることは否めません。
これに比べ、奥深い山地で生活している野犬は人馴れしているものが少なく、人には相当の警戒心をもっているため、偶然に出くわした、遠目に見かけた、などという事がない限り、目撃することはできないでしょう。
つまり、人が滅多に入らない山地で野犬を見た際には、こちらもノーマークですから、その特徴を細かく見るとか、写真や動画を撮るとか、なかなか難しい至難の業となってしまうわけです・・。
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ニホンオオカミ再発見の壁
もしニホンオオカミが生存してたとしても・・数は少なく人前には出てこない、目撃情報があっても証拠がない、遠吠えを聞いても確証がない、写真があっても断定できない、これが現状です。
ニホンオオカミの生存を確認するには、生きた生態を捕獲、またはDNAを入手して鑑定するしか方法がありません。たとえ写真を撮り、動画を撮り、巣穴を見つけて生態観察までできたとしても、そのDNAを採取して鑑定しない限りニホンオオカミという断定はできません。ハードルは高いのです・・。
仮に、ニホンオオカミの死骸があり、その鑑定で断定できたとしても、それが現存しているという証拠にはなりません。現存していたのでは・・という仮説は成り立ちますが、やはり生存している生態のDNAを入手し、生態確認までできて初めて再発見が認定されると思われます。
今はハンターの数も激減し、狩猟のプロは稀少な存在になりつつあります。山で野犬の痕跡を発見し追跡できる人は少なく、またできるとしてもあえて追跡する理由がありません。偶然に山で糞などの痕跡を見つけても、ニホンオオカミでは、と考える人はほぼいないと思われます。ここにも他の動物と違うヤマイヌならではの壁があるわけです。
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ニホンオオカミ生存の可能性
とはいえ、やはり純粋なニホンオオカミの生存は・・というと可能性は極めて低いと思います。あまりにも生息可能な山地が少なすぎるという点、種の存続に必要な個体数が未だに残っているとは考えにくいのが実情です。しかし、交雑種ならどうでしょう。その血は限りなく薄まってしまっているかもしれませんが、野犬との見分けが難しい点などを考慮すると、野犬の群れの中にニホンオオカミの血を受け継ぐヤマイヌがいても何ら不思議はありません。
この答えを求めるとしたら、山に生息している野犬、とりわけ日本犬に近いものを片っ端からDNA鑑定する以外はないんでしょうね・・。あまりにも非現実的です。いつかの何らかの偶然を待つ以外には方法がなさそうです。
でもロマンがあります。ニホンオオカミの血を受け継ぐヤマイヌが、今も日本のどこかの山地を自由に駆け回っているとしたら・・。遠吠えをしていたら・・。
そう思いを馳せると、無理矢理探すのではなく、そっと見守っていてあげたいと思います。いつまでも伝説は伝説として、たくさんの人にロマンを与え続けられる存在、勝手ながらそれが私のニホンオオカミ、ヤマイヌという存在です。
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